▼こおりのきおく▼
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 「何だ、こりゃあ?」
 少年の素っ頓狂な声で、目が覚めた。目の前が、光で溢れる。
 「どうしたの、ミュール?」
 「どうしたもこうしたもあるかよ、見てくれよこれ!」
 少年は不機嫌極まりない様子で、問い掛けた少女の方へ私を手渡した。わぁ、と少女が声を上げる。

 「凄い。綺麗ね。……何かしら、宝石みたいだけれど、違うみたい。」
 これが一体、どうしたの?という少女の言葉に、少年は、どうしたもこうしたもあるかよ!と再度声を荒げた。髪をくしゃくしゃと掻き毟るような音が聞こえる。
 「死ぬ気でここまで登ってこれかよ!もっとよぉ、あっと驚くようなお宝が眠ってると思ったのによ!旧遺跡の産物だとかさ!」
 ちくしょうあのオヤジ、何が百階まで行けば最高のお宝に出会える、だ!と、不満げな少年の呟きが洩れる。
 私はそんな少年の声を聞きながら、今までのことを思い返していた。

 あれから。そう、私をここまで守って来た男の手によって、私はここで眠りついた。その後、男がどうなったのか私は知らない。私が知るのは、男の手によって此処に置かれるまでのことだ。
 閉じられた空間や、限りない静けさは、時に孤独を思わせたが、ここが男の選んだ場所なのだと思うと、どこか誇らしく思える気持ちがあり、また同時に、私を握り締めていてくれた男の手の暖かさを、まるで昨日の事のように思い出すことも出来た。
 私は一人で居る間、ずっと出会った人々の声を、言葉を、夢の中で幾度も幾度も繰り返し見ていた。あれからどれだけの時が経たのかは分からなかったが、その記憶は鮮明で、色褪せる事など無かった。
 伝えなければいけない。目覚めてから、私はそう思った。

 「でも……この石綺麗ね。ねぇ、ロゼに見せてあげない?」
 「あぁ?何でだよ。ロゼって、宝石類とかにあんまり興味示さねぇじゃん。」

 伝える相手は、私の主だ。
 私は、伝えなければならない。私がいかに男から守られていたかのか。いかに、男が主のことを愛していたのか。いかに、主が自分の仲間たちから愛されていたのか。
 私は、伝えなければならない。

 「そうだけど……。なんだか、ほら、これってまるでロゼに似ていると思わない?
 氷の中に、炎みたいなきらめきが見えるわ。
 折角だもの、ロゼに送ってあげましょうよ。寄り道になることを承知で、兵力を一部割いて『塔』に挑戦させてくれたんだもの。何があったのか、くらいは報告しましょうよ。それに……。」
 「それに?」
 「うん。ミュールの言う『オヤジ』さんて、とっても物知りなひとだったんでしょう?もしかしたら、本当に凄いお宝かも知れないよ?」

 どうだろうなぁ。ワケわからねぇことにばかり、熱心なオヤジだったからなぁ。という溜息交えた少年の言葉に、穏やかな少女の笑い声が、重なった。



 それから、数ヵ月後。
 私は主と同じ香りをした半魔の少女に、出会った。





END








………有難うございます………!
いやもう全体的に静かで落ち付いた文章なのですが。
それがまたこの話の雰囲気をすばらしく良いものにしておられます。
激しく派手な描写はないけれど、それが逆にこう………なんて言うのかな。
くさい言葉で言うと、その人達の想いをしっかりと刻みこみながら読めるというか。
どん!とした衝撃や強い印象は必要のないお話だと思います。
そういうのがなくても十分に、染み込んでくるような感じで。
遠い昔の物語を、静謐な声がつづっているとでも言うんでしょうかね。

なんと言っても私的に嬉しいのはチクとザキフォンがいること!!
ああ元気だったんだ二人とも!そうかザキフォン髭はやしてるのか、確かに似合う。チクってば前髪薄くなったのか、不憫な。(笑
そうですよねぇ、この二人はきっと、自分の事が一段落ついたらかつての仲間のことを探すと思いますよ私も。
事実うちのサトヒロ小説でも(以下略
3人でとつとつと姫さんの事を話しているシーンが好きです。
涙がこみ上げてくるシーンで、私もほろりときました………。

ラスト。
「氷の記憶」自身が語っているところがいいです。
第三者的よりピッタリくるとおもう。
『氷の記憶』が受け取った暖かい、大切な想い。
そうして確かに想いは受け継がれてゆく。

ミュールの言う「オヤジ」。これはGOCのドウム戦闘国家関係のイベントみればわかりますよね………。
ああさりげない設定有難うタカノさん。
こっそりミュールとネーブルの組み合わせが好きな私としても嬉しかったり。

ともあれ、本当に有難うございました!