アンクロワイヤー&ロゼ




『大丈夫』だと思うのに、消えない『不安』。
そのあどけない寝顔はこんなにも近いのに。
ふっとした瞬間、消え失せてしまうかのような。

だから。

前へ前へと進むあなたを見失わぬように。
肩を並べ、共に進もう。


タカノ様から戴いたアンクロゼ。うちの年賀イラストアンクロゼ&ウェアルとの交換ですじゃ。

数少ないアンクロゼ同志!ってことでかいていただきました。

おまけに小噺までいただいちゃったですよ!しかもこっそり小噺には私の好きな他の二人も…(悦

ああもう有難うございますタカノさん。大好きです。

アンクロさんの昔馴染みの少女との対比がよさげ。


 時にぎりぎりの、一本の細い線に縋り付いて立っているような気さえ感じさせる、そんな少女だ。
彼女とロゼ。独りになった時に、どちらがより不安か思うと――それはロゼの方だな、と、とりととめもなく思った。


まさにそのとおりだと頷いてしまいますですよ。ロゼはしっかりしているし大丈夫と言うイメージを持つけど、

同時に一人にさせてはいけない、と言う雰囲気も持っていて。

ラストの恥ずかしい台詞をさらっと言えるアンクロさんが素敵。照れ隠しするロゼが可愛い。

本当に有難うございますー!てなわけで、小噺【ひかり】をどうぞ。






 
------------▽ひかり▽------------


 柱に背をもたれさせ、それから大して間もおかずに寝息が聴こえて来た。
余程疲れていたのだろう、無理も無い。先程まで呪文を息次ぐ間もなく唱えていたのだから。

 他のメンバーと別れてしまって、果たして何時間経ったことだろうか。
眼帯をして、何時の間にやら随分と陰気になった男と、それとは対照的に、陽気さを体現したかのような女。
二人の元同僚たちのことが気にかかって、それから直ぐに苦笑した。
 あの二人のことだ、何だかんだ言いながらもきっと無事でいるだろう。
女の方は、久々に男と二人きりの時間が取れたことを密かに喜び。
男の方は、女の方からの一方的な話に聊かうんざりしながらも、暗闇の中に響く明朗とした声に、 無意識のうちに殺伐とした心を解かせているに違いない。

 そこでふと、傍らで眠る少女を見た。
 半魔の少女は、落ちてきた巌によって分断されてしまった仲間と、封じられてしまった道に全く取り乱さず、 互いにここを脱出し、後に宿で落ち合おうと、向かいの二人に声を掛け、再び探索へと戻っていった。
 泰然とした少女のさまに、暫くの間呆気に取られ、我に返り、口を開こうしたところで少女の真っ直ぐな視線に射竦められた。
こちらを探るでなく、責めるでなく、ただ静かにその眼差しが向けられる。
良いわよね?と問い掛けられた言葉に、文句が出よう筈もなく、 そのままアンクロワイヤーは少女と、出口の知れない廻廊を彷徨うこととなった。


 魔皇軍の君主であるのだから、当然のことだと言えばそれまでだが、実に指導力のある娘だと思う。
彼女の仲間たちから、少女は十八だと聞いた。それを聞いて、ふと、ある少女を想い起こした。
思い浮かべた少女と、目の前にいる娘とを比べると、二人の異なっている様ばかりが思いつく。
だが、強引なところが二人とも同じだということがぱっと頭で結びついて、何だか可笑しくなって、笑ってしまった。

 「ん……。」
 声と、僅かな身じろぎ。起こしてしまったか?と思うと同時に、肩に僅かな重さがかかる。そのまま、寝息を奏で続ける。
 ほっと息を吐く。此処から出たらまた歩き通すこととなり、ロゼもそれに対し不満は出さず、寧ろ自ら進んで歩き出すことだろう。
ならば、せめて今だけでも休ませてやりたい。頬や、大腿部に負った傷が見ていて痛々しかった。

 彼女は見ていて、直ぐに保護欲を掻き立てるような存在だったが、ロゼは違うな――。
 そんな事を、独り思う。別に保護欲を掻き立てない存在というわけではない。
ただ、見ていて危ういと思うタイプではないのだ。一人でも安心だろうという気持ちさえ持たせる。
だが、彼女とは異なる意味で危うさを感じさせる少女だった。
 時にぎりぎりの、一本の細い線に縋り付いて立っているような気さえ感じさせる、そんな少女だ。
彼女とロゼ。独りになった時に、どちらがより不安か思うと――それはロゼの方だな、と、とりととめもなく思った。



 どれだけ経っただろうか。ゆっくりとロゼが起き上がるのを感じた。肩に乗っていた重さがなくなり、 同時に感じていた温もりが逃れてゆく。辺りを見回して、ふぅ、と溜息を吐く。
 「……御免なさい。私だけ随分と眠ってしまっていたわね。」
 「いや、気にせずとも良い。見張りは軍人の務めだ。君の気にするところではないだろう。」
 でも……と、なおも言い募ろうとしていたが、不意に口を噤んで、あれ!とアンクロワイヤーの方を指差した。
向けられた方に視線を寄せると、窓辺から光が射し込んでいた。窓辺からは緑の葉が揺れているのが見える。
――ここから、出られるかもしれないな。
 「……眠っていたところ、見張りをしていた人に言うのもどうかと思うけれど、気付かなかったの?」
 紡いだ言葉に、やや非難するようなロゼの赤い眼。背ける事無く、まっすぐと受け止め、やや微笑みながら、ゆったりと答えた。
 「ああ、君のことに夢中で、気付かなかったよ。」
 顔を赤らめて、信じられないとでもいうかのように、ロゼは口をぱくぱくと開けている。
歳相応の反応を目にして、何となく嬉しくなったアンクロワイヤーはふっと笑い、立ち上がる。
ちらりと再びロゼの方へ目をやると、ぱちりと視線は互いに交わり、顔を伏せて荒々しげに立ち上がった。
ばさばさと乱暴にスカートについた埃を払い。さぁ、行くわよ!と窓辺の方へと自分を置いて進んで行く。
その後姿が、似ても似つかぬ少女の姿を連想させた。
 ――決して目を背けずに、前を見つめ、進む姿――。
 「アンクロワイヤー!早く!」
 「ああ、今行く!」
 駆け込んだ先に、光が飛び込んできた。



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