浜菊



潮の匂い。
風は冷たく。
細波の音。




影は群青。
砂原すら蒼く。
紺碧の海に浮かぶは下弦の月。




さくさく

さくさく




ゆるやかに沈み足跡を残す。
波が砂を撫ぜ、消して行く。




さくさく

さくさく




裸足の男は、寄せては返す細波を楽しげに見下ろし。
藍色の空の下で金の髪を月光にさらす。






「あぁ、」






浜際の岩場に視線を向け、うっそりと微笑んだ。






「そこにいたのか」






暗い岩場に佇む影一つ。
まるでその一部のように密やかに。






「冬の海もいいもんだ」

「特に夜の海がいい」

「暗くて昏くて、全てを拒むようで」

「そして全てを受け入れるような闇を湛えている」






月が明るければ明るい程。
影は濃く闇は深くなる。






「そうだな」

「まるで、お前のようだ」






影は何も言わない。




さくさく

さくさく




男は岩場へ歩き出す。
黒い岩場の合間に白い光。






「あぁ、」

「浜菊だ」






月明かりを浴びて仄かにゆらめく白い花。






「それともお前は、」

「この、花か?」






海を見つめて咲く花。
まるで想い焦がれるように。




金の双眸を細め、男はいと容易く花を手折る。




影を見上げる無機質な程の白い肌の男。
影の姿を月が曝け出す。
金色の髪の男を見下ろす烏の塗れ羽色の髪。




影は岩場から降り立ち、男の側へと歩み寄る。
紺碧の眼光。




男は薄く笑い、影を抱き寄せる。
手の中の、闇に咲く白い花。






「なぁ、」

「     。」






波が声を、攫う。














―了―





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子規青志様へ。十一月四日、ご生誕日、おめでとうございます。
日頃の感謝を込めて差し上げたいと思います。

浜菊は十一月四日の誕生花。
ちなみに浜菊の花言葉は「逆境に立ち向かう」だそうです。
日本原産の、別名『日本の花』だそうです。ビバ純日本産。

それでは。
貴方にとって良き歳になられますよう。