■セリフから連想30題■
3:『あなただけを想う』




 これからもずっと。
 ただ、あなただけを想う。




 それは人魚の恋の物語。



 アーマリンは優しい娘だった。
 優しくて穏かで、気立てのよい、そして一途な娘だった。
 そう、人間に恋し、己の命を縮めてしまうのもかまわずに、陸に上がり、人として生きる事を決めてしまうほどに。


 「本当に行くのかい?」

 そう問いてきたのは母親だった。
 アーマリンは一瞬困った顔をし、それでも口元に笑みを浮かべて深く頷く。

 「お前は昔から真っ直ぐな子だったからねぇ」

 もう何を言っても無駄だという事をその表情で悟ったか、母親は苦笑する。
 彼女はある日、人間に恋をした。
 母親は娘の恋路に口を挟むつもりは無かったが、よりによって選んだ相手が人間。
 他種族を害し、大地だけでなく海をも汚すあの『人間』だ。
 当然、母親だけでなくそれを知った周りは反対する。
 けれども彼女は決してその気持ちをかえたりはしなかった。

 「ごめんなさい。母さん」

 一言そう呟いて、アーマリンは母親の体を抱きしめた。  周りの反対も説得も振り切って、彼女は陸へ上がる。
 海に戻らず陸のみで暮らすのは確実に彼女の命を削ることになる。それが分かっていながらも、彼女は陸へ上がるのだ。  ただ一人の愛しい男のために。

 彼女の選んだ男は、誰よりも海を愛した男だった。
 その眼差しと志。側にいたいと希うほどに想った。
 彼女は男に想いを打ち明け、男はそれを受けいれた。

 「後悔なんかしないように生きなさい」

 母は彼女の髪をゆっくりとなでながら言葉を紡ぐ。

 「うん」

 頷く彼女の笑みは、何よりも幸せに満ちていた。





 「シオン様」

 「何だ?」

 「私は、シオン様の側にいられて幸せです」

 一点の曇りもない、その一途な想いを言葉にすると、男は面を食らったように僅かに目を見開いた。
 それから、小さく落とすように笑う。

 「………そうか」

 「はい」

 「………ならば俺は海に感謝すべきか。お前と出会えた事を。………お前と共にいられることを」

 そう言って、男は彼女を優しく抱きしめた。






スペクトラルフォースシリーズ
World:ハネーシャ艦隊軍

お題配布: セリフから連想30題