いと小さき君のために。




 壊れ始めた世界。
 混沌の中から現れしもの。

 ヒトゲノム。

 ヒトゲノムとは
 人の次に世界を治めるべき主。

 だから。




 少女は洞窟の奥にいた。
 少し前まで冥府とこの世界を繋いでいた洞窟に。
 少女はまっていた。
 皆を。
 迎えに来てくれる皆を。
 そこへ、奇妙な者達がきた。
 一人の者が手を差し出した。
 来るのだと。




 「……」
 洞窟の中ではみられなかった青い空。
 果てしなく高く高く。何処までも真っ青な空を、少女を珍しそうにみあげていた。
 何をするでもなく、ただぼんやりと。

 手を差し伸べてきたのは『クライス』といった。
 よくわからなかったが、己に敵意をもっていないようだったのでついてきた。
そのクライスは何だか半魔の娘によばれてどこかへ行ってしまった。
あの時、一緒にいた銀の髪の娘…フローネも共に。何でも、今度の進攻地がどうの。興味無かったので城の屋上にきたのだった。

 「お?」
 そこへ長い金の髪の男。
ぶらぶらと屋上へ来て、屋上の囲いに腰掛けてる少女を見つけて声をあげる。
 「よぅ。マフィンじゃねぇの」
 気軽に声をかける。マフィンとよばれたその少女は、こえのした方向を見た。

 ええと。確か。

 「『テモワン』」
 「お。オレの名前覚えてくれたんだな。嬉しいねぇ」
 にぃっと笑って、マフィンの側まで来る。そうして、彼女の座っている囲いに手をついて、ひょいと身軽にその上にのった。
 「どうしたんだい。こんなとこで。保護者はどした?」
 「ほごしゃ?」
 「クライスの事だよ」
 「…『ロゼ』によばれて『フローネ』と一緒に『作戦会議』にいった」
 言葉を並べるようにそういうと、テモワンの表情が笑みのまま凍りついた。
 「…作戦会議?」
 「うん」
 「……後でクライスにどやされる…」
 どうやら大事な会議の事をすっかり忘れていたようである。
 「どうしたんだ?」
 「あ…いや、何でもない。…まぁ、やっちまったもんはしょうがねぇかぁ」
 困ったふうに眉を下げつつ、テモワンは空を仰ぐ。
 「マフィンはなにやってんだ?」
 「何が?」
 きょとんとしていい返す。
 「いやだから、こんなとこで何してたんだって」
 「何もしていない。空を見ていた」
 そういって、もう一度真っ青な空を見上げる。
 何処までも果てしない空。
 洞窟の中では絶対に見れなかったそれ。
 壊れはじめた世界と言うけれど。
 空は何処までも青い。
 「ふぅん?」
 1つ、相槌をうってからテモワンも空を見上げる。
 「……」
 「……」
 風が気持ちいい。
 草葉の匂いや花の香り。木々の芳香や獣のにおい。
 いろんな『命』のにおい。
 風にまぎれて鼻をくすぐる。



 この世界は壊れている。
 その混沌から自分は生まれた。
 人にかわってこの世界を治める次の生命。それが自分。
 だけれど。
 壊れているのに、何でこの世界を「きれい」だと感じるのだろう?
 確かに醜いイキモノがいる。この世界を壊す原因の。
 しかし、その中に何故か、醜いはずなのに、きれいだと感じるもの達がいる。
 何でそんな風におもうのだろう。
 なんで。



 「さぁて」
 テモワンが囲いの上に立ちあがる。
 「そろそろ会議も終わった頃だろ。いってみるか」
 そういってまたひょいと身軽に飛びおりた。
 「マフィンも行くかー?」
 振り返り、囲いの上からこちらを見下ろす少女に青年は声をかける。


 でも。


 「ほれ」
 そういって手を差し伸べる。


 …でも。
 こうやって。
 気軽に手を差し伸べてくるのだ。
 それらが。


 「うん」
 手をとって、ひょいと囲いから飛び降りる。
 「さて、あんまり怒ってなきゃーいんだけどな。クライスちゃん」
 そうぼやきながら、マフィンの手を握ったまま、テモワンは歩き始めた。
 マフィンもその手を振りほどかずに黙って、とととっ、と後をついて行く。

 大きくて暖かい手だと思う。
 クライスのはもう少し小さかっただろうか。
 フローネの手はそれよりももっと小さくて、柔らかかった。
 でも「剣を握るからタコができちゃんだよねぇ」と笑っていた。


 こわれたせかい。そこにいきるみにくいものたち。


 壊れていても、醜くても。
 何故だか何処かで切なく大切に思える。
 これはなんと言うのだろう。
 何と言う気持ちなのだろう。

 「マフィン、あとでフローネの作った菓子でも食うか?皆で茶でもしようぜ」
 「そういって、テモワンが食べたいだけじゃないのか?」
 「ははははは。やっぱわかるか?だってよ、稽古してたら小腹がすいてなぁ」


 ただ。
 今日は天気がいいし、空は高く青いし、風はいい匂いがするのだ。


 だから。
 今日は皆でお茶をしよう。




 ────了────






 ←小説トップ



掲示板にゲリラ的に書いた話です。
某御人と話していて、はまらされたと言うかなんというか。
テモワンは何となく、ブレイドではあんな愚痴っぽかったですが、実は子供好きかなぁと思ったり。
で、面倒見よさそうですし。案外。
クライスとフローネが夫婦で、テモワンは近所のにいちゃん。
で、マフィンが娘ってな感じで。
マフィンのキャラデザはちとあれですが大丈夫ですし。
性格は勝手に作ってます。ごめんなさい。苦手な人もごめんなさい。
でも、こういうのもいいとは思いませんか?

01/10/21