みつあみ。 |
テモワンの髪は長い。 牢獄につながれていたから、切る暇がなかったのだと言っていた。 それにしたって長い。 元から長かったよとフローネが言っていた。 髪が風になびく様はまるで鬣(たてがみ)のようだ。 しかしいい加減切れとクライスが言っていた。 「♪」 「・・・・・・(汗)」 見れば一人の少女が同い年くらいの少年の後ろ髪をあんでいた。 「…何をしているんだ?」 それを見たマフィンは、もの珍しそうに二人にきいた。 「ん?何をって、見てわからぬか?」 長い青紫の髪をもった少女がきょとんとしてききかえす。 「わからない。」 マフィンは即答した。 「…まぁ、よい。今、シロちゃんの髪を結ってやっておるのじゃ♪」 何だか至極上機嫌でその少女はいう。確か名を鈴魚といった。 「姫様ぁ、いいですよ…僕、自分でやれますよ…」 「何をいうか!予が結ってやっているのじゃぞ、有り難くおもえ!」 居丈高にふんぞり返るような勢いの言葉で鈴魚はいう。 「いえ、はい、それは物凄く嬉しいんですが…」 赤い顔をしながらごにょごにょという。 「ならばよいではないか!ともかくじっとしておれ!」 「はい…」 ぺし、と後ろ頭を軽く叩いてやる。 シローは眉を下げながら、嬉しいやら申し訳ないやら後で某大老に怒られそうだわで複雑なようだった。 「…何で髪を結うんだ?」 鈴魚達の側にちょこんとしゃがみこんでマフィンが聞く。 「うん?御主も結っておるではないか」 細い束の髪を髪どめでとめている。それを指さして鈴魚が答えた。 「これは…しらない。最初から、こうだった」 「そうなのか?」 「うん」 こくりとうなずく。 「ふぅむ。んー、取りあえず、髪を結うのはおおまかに2種類あると思うぞ。1つは邪魔にならないように。もう1つは己を飾るためじゃ」 「ふぅん」 「シロちゃんのは邪魔にならぬよう、みつあみに結ってあげてるのじゃ。」 いいながら、シローの髪を結う手はとめない。 「みつあみ?」 「うむ。こういう結い方の事を言うのじゃ。」 マフィンはその様をじーっとみる。みっつの束に分けた髪を、ひょいひょいと器用にあんでいく。 「…そうか。分かった。」 そういって立ちあがり、とととっと向こうへと走っていった。 「何だったのじゃ?」 小首をこてんとかしげて鈴魚がいう。 「…あの、姫様、…まだですか?」 後ろ髪なので、後ろを向けず、視線は前に向けたままでシローが問いかけた。 「急かすでない!まっておれ、もうすぐじゃ」 また、ぺし、と頭を叩く。 何でまた、珍しくこんな事をしているのかというと。 大老から、母親の話をきいたせいだった。 母親は父親の長い金と黒の髪をいつも結ってあげていたそうだ。 それをきいて、何となく、自分も誰かの髪を結って上げたくなった。そこへ丁度、シローがきたので。 シローにとっては何はともあれ、幸運だったと言うべきか。それとも。 「あ」 緑の草の大地の上に、まるで金色の幾筋もの水が流れているようだった。 空は高く青く、今日もいい天気だ。戦争が本当におこっているのかを忘れさせるような陽気。 そんな暖かな陽光の下、青々と茂った大きな木の根元に腰をおろしすわっている姿を見つけた。 「・・・・・・・・・」 近寄ってみれば、くかーっと、実に気持ちよさそうにテモワンは眠っていた。確かにこの陽気ではついつい居眠りをしたくなってしまう。 マフィンはテモワンの隣にちょこんとすわる。しばらく、じーっとテモワンを見てから、草の上に流れる金の髪に目をうつす。 手にとってみれば、意外にさらさらと手を指をすりぬけ滑り落ちる。なんだか面白い感触だ。少し硬質っぽくて。けしてかたい訳では無いのだが、何となくそう思う。 「・・・・・・・」 よいしょ、と髪を束ねる。長いし、量もそれなりにある。そして、マフィンは先ほど鈴魚がやったように真似してあんでみる。 まずは髪を三つの束にして。それを順にあみこんでゆくはずだ。 「・・・・んあ?」 間抜けな声を出してテモワンがゆっくりと目をあける。何となくもそもそと側で気配がして、ぼんやりと視線を向けてみれば。 「・・・・・・・・・・。」 何やらマフィンが、己の髪でもそもそしていた。 「・・・・・・・マフィン?」 がり、と頭をかいて声をかける。だがしかし、髪を編むのに熱中しているのか、マフィンは顔をあげずに手元をじっと見据えながら髪をいじっている。 「…マフィンちゃーん?」 「・・・・・・・・・」 もう一度名を呼んでみるが、やはりマフィンは顔を上げない。 テモワンはそれに苦笑し、鼻頭をかるく指先でかいた。そうしてそのまま、動かずに少女の好きにさせる事にした。 木々の葉や枝の間からこぼれる日の光。風で木が揺れる度、それは様々に変化するように揺れ、まるで万華鏡のようだ。 さわさわと風になる草。その風が運ぶ草木の清々しいにおい。暖かな陽光。ゆっくりとすごすには最高の刻(とき)。 と。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 マフィンの手が止まった。 あめたのかと思って見てみれば。 「・・・・・・あらら」 おもわず苦笑した。 テモワンの金の髪は上手くみつあみに編み込まれておらず、歪(いびつ)にこっちできつく締め付けられてたり、こっちで緩く編み込まれていたり。長さのたりない途中の髪がぴんとはねていたり。 マフィンはあまり感情をださない(と言うか多分感情を知らない)顔で、それでも非常にふてくされているとわかる雰囲気をまといながら、ぽつりと呟く。 「・・・・・・・・・・上手く結えない。」 むぅ、と口を噤む。かなりゆえなかった事が気にいらなかったらしい。 「・・・・・・・・ぶふっ」 その物言いにテモワンはつい笑いを吹き出す。 別に馬鹿にしたわけではなく。その様が何と言うか、可愛らしいというか。くっくっくっと笑いを噛み殺しながら、マフィンの手から己の髪を解く。それから、手櫛で軽くからまった髪をなおす。 「みつあみに結いたかったのか?」 そう聞けば、こくんと頷いた。 「じゃ、オレが教えてやるよ」 いいながら、自分の髪の先の方をもって3つに分ける。マフィンと同じ方向に向いて座り、わかりやすいように実地する。 「こいつをな、こうやって、こう。んで、今度はこっちのをこうもってきて、こっちをこうするんだ。あとはその繰り返し。それと、あんまり力入れ過ぎたりもすんなよ。適度にゆるまない程度に引っ張りながら」 そのごつい指先が意外に器用に動く。マフィンはそれをじーっと真剣に見ていた。 「ほれ、ちょっとやってみ。焦んなくていいからゆっくりとさ」 そういって、続きをやらせてみる。 マフィンは受けとって、テモワンがやっていたように、ゆっくりとやってみる。 「そう、そうそう。んで、そっちを…そそ、こっちにもってきて、今度はそっちを向こうに」 先程よりも随分上手く、髪がみつあみに編まれていく。 「こうでいいのか?」 「おう。上出来♪」 言われてマフィンはその髪をもう一度ほどきはじめた。 「マフィン?」 「もう一度、最初からする。」 「最初から?」 「うん。だからテモワン、前を向け。」 びし。と言われて、テモワンは思わずきょとんとする。それからまた、くくっと笑って、片手をあげ、はいはいといいながら前を向いた。 「あ」 「ん?」 「お。」 向こうからクライスとフローネが一緒に歩いてきた。御互いを見つけて声をあげる。 「どうしたの?こんなところで」 「おー。フローネ。クライス」 歩み寄って来たフローネにテモワンが軽く手を上げて答えた。 「天気がいいから、外で昼寝してたんだ」 「あー、なるほど。確かに今日は天気いいよねー…って」 フローネの視線が、テモワンの、見事に長く結われた金のみつあみに注がれる。 「どうしたの?それ!あはっ、可愛いねー!」 側にしゃがみこんでそのみつあみを手にとる。 「おう。可愛いだろ。マフィンが結ってくれたんだぜ」 「マフィンちゃんが?」 そうきくと、テモワンの隣で足をのばして座っていたマフィンがこくりと頷く。 「へぇー、うまいねぇ。でも、またなんで?」 「・・・・・・髪、長かったから。長いと結うものだって。結うのは、邪魔にならないようにするか、自分を飾るためにだって。テモワンは、いっつも戦ってるから、邪魔にならないようにあんだんだ」 「…なるほどな。当の本人よりマフィンの方がよほどちゃんとしているな」 「…それどういう意味よ。クライスちゃん」 「言葉のとおりだ」 つれっとしてクライスは答えた。 「…マフィン。今度クライスが寝てる時、クライスの髪、みつあみにしてやれ」 ぼそ。とマフィンに耳打するようにテモワンがいった。 「でもクライスは短いぞ?」 「短くてもいいんだよ。ちっさい束で何個もみつあみつくってやれ。かーわいいぞー」 「…うん。分かった。」 どこがどうかわいいのかわからないが、取りあえずマフィンは頷いた。 と。 「ライジングフォーーーーース!!!」 掛け声とともにクライスの剣が勢いよく振り下ろされてきた。寸ででテモワンは側においてあった己の剣でそれを防ぐ。ぎりぎりと刃がこすれあう。 「なぁにしやがんだよクライスちゃん?」 「テモワンこそ、マフィンに要らぬ事をさせるな」 「何言ってんだよ。マフィンはみつあみうまいぜぇ?」 「だからといってオレの髪で遊ばせるな!」 がきん!と刃が弾かれる。お互い間をとって向かいあう。 「よっしゃぁ!そっちがその気なら相手になってやらぁ!こい!クライス!!」 意気揚々と、何だか嬉しげに、好戦的に顔を歪めながら構える。 「…お前とやりあうのは久しぶりだな。手加減はしないぞ!」 「望む所!!」 そうしていきなり戦闘勃発。 「裏奥義!封神閃!!!」 「ライジングフォース!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 唐突に始まった二人のじゃれあいをフローネは半ば呆れたように、マフィンと一緒に遠くで眺めている。 「相変わらず、血の気が多いんだから。まったく」 「とめなくていいのか?」 くん、とマフィンはフローネの服を引っ張る。 「いいのいいの。じゃれてるだけなんだから。それより、レモンパイやいたんだよ。一緒に食べない?」 にっこり笑ってそういう。 「食べる。」 即答。 「よし、じゃ、いこっか」 「うん。」 そう言って、手を繋いで、二人は建物の中へと入っていった。 今日も相変わらず、空が青い。 『ソニックブレイブ!!!』 二つの声が重なり合って、同時に同種の技が飛びかった。 こっちも本当に相変わらずである。 更に一方で。 「うーん…何か違うのじゃ」 シローの髪を結い終わり、そのみつあみをフリフリといじりながら鈴魚が呟く。 「何がですか?」 相変わらず前を向いたまま、シローが問い返す。 「シロちゃんの髪だと何だか結い甲斐がないのじゃ。ほそいから」 「煤iT□T;)」 すぱ。と言われた言葉にシローは固まり、そして涙する。 「父上の髪はもっと豊かで…長くて…」 長さならばシローも長いのだが、確かに髪の量と質が違いすぎる。 「うーむ…」 そんなふうにつまらなさそうにしていると。 「姫、どうなされました?」 鈴魚の様子を見に大老の蓮撃がやってきた。 その姿をとらえて、鈴魚はぽん、と手を叩く。 「そうじゃ!よい所へ来た!蓮撃!!」 「は?」 嬉しそうに己の腕にじゃれつく姫君を見おろしながら怪訝そうに首をかしげる。 「ここに座るのじゃ。」 ぽふぽふと芝生をたたいて鈴魚は蓮撃をうながす。 「はぁ」 言われるとおりに蓮撃が座ると、鈴魚が蓮撃の後ろにまわりこんだ。そうして少し白髪のまじってきている蓮撃の髪をほどきはじめた。 「予が髪を結ってやろう♪」 「─────────」 いわれて蓮撃は、ははぁ、と思い至る。 先ほど、せがまれて彼女の両親の話をしてあげた。その時、彼女の母親がよく父親の髪を結って上げていたと言ったから。 姿も思い出せぬ母を真似るように、誰かの髪を結ってみたくなったのだろう。 そうして蓮撃は、ふ、と笑う。歳を経て渋みを増した深みのある笑顔で言う。 「…ありがたい事です。それでは、お願いいたすとしましょう」 「まかせておけ!」 鈴魚は酷く嬉しそうにこたえた。 遠く空高くで鳥達が鳴いている。 今日も、いい天気だ。 ────了──── ・・・・シローは? 「・・・・・・・・・・・・・・・( TT)」(さめざめ) 小説トップへ。 |
掲示板にゲリラ的に書いた話です。 またもやブレイドメンバー。 んでもってクライスの性格がなんか違います。かいていて物凄く違うと思いつつも何だか変えるにかえれんというか表現が乏しいと言うか眠いというか(言い訳) ・・・・すみません。あんだけクライスの性格違うとかGOCで叫んでるくせに。 今度かく時はーーーーー!!(T□T) で。なぜかムロマチ…もとい、東方メンバーも。 これは青志さんにサービスサービス。いつも御世話になっていますゆえ。それに私自信、彼らが好きですし♪いやぁ、かいていて楽しいです。鈴。 最初はネーブルがみつあみ結んでるんだったんですけれど。 01/11/03 |