ヘリアンサス
〜ある日のウェイブさんとアルさん。〜





 ───────初夏。

 ここ無名兵団が治めるガウガブルにも夏が訪れている。
 夏の緑は色濃く、青々としており、日差しを浴びてまかれた水がきらきらと反射して光り輝いている。
それは命というものをどこかしら強く感じる季節。

 「・・・アル?」
 ふと。
 会議が終わり、自室へ戻ろうとしている時だった。
 この国の君主であるウェイブ。闘神と呼ばれるスペクトラルタワーを唯一征した男。
 ウェイブが何の気なしに窓から外をみると、いつもの薄い藤色の服ではなく、動きやすいシャツと作業着に着替えているアルをみつけた。庭師の初老の男と何やら話している。
 「・・・・・?」
 そこは、ついこの間まではたしか、つかっていない物置のような建物があって、手入れはしてあったものの、庭と呼べるような所ではなかったはずなのだが。今では、きちんとした拓けた立派な庭になっている。
 見ればその庭には、何かを植えたのか、何らかの植物の芽がでている。
 アルは笑いながら、ホースで水をまきだした。



 「アル」
 「はい」
 何日かたって。
 仕事を終わらせ、さてこれから庭へいこうかと思っていたアルをウェイブが呼び止めた。
 「手を見せてみろ」
 ふいの言葉に思わずきょとんとする。すると、そのままウェイブはその手を掴んでこちらへ引いた。
 「・・・いったい、何を植えているんだ?」
 「え・・・」
 少し、作業で汚れた指先。軍手をしていても、ちゃんと手を洗っていても、毎日していればそれはなかなか落ちなくなってくる。
 「裏手のほうに庭を作っているようだが?」
 「・・・知ってらっしゃったんですか?」
 「ああ」
 言われてアルは少し苦笑する。
 「・・・せっかくあとで驚かせようって、ウォードさんと内緒にしていたのに」
 それから、ふふっと、もう一度笑う。
 「もう少しまっていてください。そうしたら、お教えします。あと、しばらくは庭は見ちゃ駄目ですよ?お願いいたします」
 にっこりと、やわらかい笑顔でそういう。
 「・・・・・わかった」
 何故だか、ため息をついたものの、素直に返事をしたウェイブ。それを聞いて、アルはそれでは、といってぺこりと礼をしてむこうへ駆けて行った。
 「・・・・・・・」



 それから。しばらくたって。
 「ウェイブ様!」
 アルがウェイブを見つけて駆けて来た。
 「ウェイブ様、ちょっと、庭の方へきていただけますか?」
 「・・・・あの庭か」
 「はい。あの庭です」



 そこには一面の、太陽の花。
 「・・・・・・・・・・」
 真っ青な空の下、その太陽の花は、空にある己の姿を見るかのように天に向かってその手を広げていた。光を浴びて、金に輝く大輪の花々。
 「夏なんで、向日葵を植えてみたんです。いかがですか?あんまり大きくはないですが…」
 それでも、ウェイブの背丈ほどもある高さだ。
 「…あの荒れた土で、よくここまで育ったな」
 「はい、ウォードさんがお仕事の合間に手伝ってくださったり、色々教えてくれたんです。どんな土でも、花は育つんですね」
 慈しむように、金の花を見上げるアル。
 「・・・お前も仕事があっただろう」
 言われて、アルははっとなる。
 「あ、すみません!でも、仕事はおろそかにはしてません。大丈夫です!」
 …そういう意味でいったのではないのだが。
 アルが仕事をおろそかにするような娘でない事はわかっている。ただ、あの激務の中、手伝ってもらったとはいえ、よくこの広さの庭をつくり、見事な花をさかせたものだ。

 …思った事には一途で、真っ直ぐな娘。

 「ウェイブ様?」
 黙っているウェイブを怪訝そうに見てアルが声をかける。
 「・・・向日葵がおわったら、また、何か植えるのか?」
 「あ、はい。そのつもりです。でもちょっと忙しいですから、あまり種類はうえれませんが・・・・」
 最近は、北の方を制しつつある魔王軍と、解放軍ドウム、神聖皇国軍の動きが激しい。「ちょっと」どころの忙しさではない。
 だけれど、すると決めた事はやりとおす、意志の強い娘でもある。
 「・・・アル」
 「はい」
 「・・・何かあったら言え。俺も手伝おう」
 向日葵を見上げたまま言われた言葉に、アルは一瞬、何を言われたのかわからず、動きを止めてしまう。それからようやく頭で理解して、
 「え?!そ、そんな、ウェイブ様!」
 「迷惑か?」
 「迷惑だなんて、そんな事はありません!でも…」
 「ならばいいだろう」
 はっきりとした、これ以上の拒絶の言葉を否定する声。
 そうして、ウェイブはアルの方を見て言う。
 「・・・自分で育てた花を見るというのも、たまにはいいだろう」
 「・・・・・・」
 タワーを征した時に、失ってしまったという優しさ。
 それは嘘だ。
 失ってはいない。この人の手は暖かく、声は柔らかい。昔のような穏やかな笑顔をみせることはないが、こんなにも纏う空気は優しい。
 「・・・・はい。」
 嬉しさに、アルは顔をほころばせて笑う。
 「さぁ、いくぞ。次の仕事があるだろう」
 「はい!」



 金に輝く太陽の花。

 それらが、夏の風に揺られ、いつまでも二人を見ていた。



 ────END────
 



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ウェイブさんとアルのお話、その2。何だか、「一緒に、紅茶を」に似た感じになってしまって…反省。
このお話は、サトヒロ部屋の小説とも実はさりげにリンクしていたり。
サトヒロ部屋のある小説の、数年前の出来事。

ともあれ、ほのぼののほのほはいいですねぇ。やっぱり。
01/04/08