■青天の霹靂


国を逃れた時に負った傷も大分癒え、新しい戦法を確立し始めてから少し。ヒューバートとフリークとも合流し、さぁ、これからという時だった。
「おう、ハンティ、今起きたのか?」
「……そういうアンタは、何、走りこみに行ってきたの?」
小屋から出てきたハンティが見たのは、すでに汗をかきながらストレッチをしていたパットンだった。
元々パットンは体を鍛えることは嫌いではなかったが、しばらく酒びたりだった時期もあり、少し前までは怪我でベッド暮らしだった。おかげでかなり体がなまっており、自由都市のアトラクションで鍛え始めているとは言え、まだまだだ。故郷の国を取り戻すためにも強くなると、怪我が治ってからは毎日欠かさずトレーニングを続けている。
「ああ、最近はすっかりハンティより早起きになったよな、俺」
「そうだね。朝の走りこみも続いているし、ちょっと前までからは考えられないね?」
少し皮肉を言うと、パットンは眉を下げてばつが悪そうな顔をする。
「アハハ、そんな顔するんじゃないよ。さ、顔を洗っておいで。ヒューもフリークももう起きてるから、ご飯にしよう」
「おう、……っとと」
方向転換して水場へ行こうとしたパットンが、足をもつれさせた。
「どうしたの」
「いや、ちょっとバランス崩しただけだ」
そう言って普段と変わらぬ足取りで水場へ向かう。水場の方から後ろ髪を結んだヒューバートがタオルで顔を拭きつつやってきた。
「おう、パットン、早いな」
「まぁな。爺さんは?」
「中で飯作ってるよ。お前も顔洗ってこいよ────って、ん? お前、何か熱くないか?」
ぽんとパットンの二の腕を何気なく叩いたヒューバートが怪訝そうに声をだす。
「そりゃ走ってきたからなぁ」
「いや、そうじゃなくて……」
眉間に皺をよせ、ヒューバートは手をパットンの額に当てる。
「どうしたんだい?」
立ち止まっている二人に首をかしげながらハンティがやってきた。
「……お前、熱あるんじゃないか?」
「へ?」
「え?」
「絶対あるって、ほら、ハンティも触ってみろよ」
促されてハンティは少し背伸びをしてパットンの額に触れる。うつむきがちになったパットンはそれを黙って受ける。ひんやりとした指先が心地よい。
「……うそ、やだ、本当にある」
「えぇ? ……でも何ともないぜ?」
手の平に伝わってきた熱さに目を見張るハンティにパットンは己の頭を抑えて首をひねった。
「何ともなくはないでしょ、結構高いよ、これ。……もしかしてさっきバランス崩したのって、熱でふらついてたんじゃないの?」
「そんなことねぇって! さっきのは本当にバランスを崩しただけ……っておい!」
パットンのがっしと両腕をハンティとヒューバートは掴んだ。
「とにかくベッドに放り込むよ」
「おう」
「おいこら本人の意思を聞かずに何すんだよ! 何ともねぇって、離せって、おーい!!」
叫ぶパットンに目もくれず、二人はその巨体を引きずって小屋へと戻って行った。




結果。
「まさかアンタが熱だすなんてねぇ……」
「………………」
「なんとかは風邪引かないって聞いたことあるぜ」
「………………」
「しかし、夏には引く、とかいう話も聞いたことはあるぞ」
「………………あのなぁ」
二人が判断したとおり、パットンは熱を出していた。しかも普通の人からすればかなりの高熱だ。しかし、本人は至って元気で走り回っていた。今は無理矢理寝かしつけられてつまらなさそうにしている。
「これくらいの熱、むしろ動き回っていた方が早く引くって」
「甘く見るんじゃないよ。そういうのが悪化することもあるんだからね」
「そーそー。今日は大人しくハンティの言うこと聞いて寝てろよ」
「うむ。何か消化のよいものを作ってきてやるからの。まっとるがええ。……しかし、お前さんが熱だすとはのう。珍しいこともあるもんじゃ」
「うるせー」
3人に揃って行動を抑えられ、流石に動き出すことは出来ない。実際、何ともないのではあるが、少しぼんやりするかな、という意識はパットンもあった。
「んじゃ、ハンティ、こいつのこと頼むな。他のことはこっちでやっとくからよ」
「うん、お願いするよ。誰か見張ってないと、ベッドから抜け出すだろうしね、パットンは」
パットンは目をそらせる。言い返す言葉もないようだ。
「それじゃあな、パットン。ゆっくり寝とけ。最近オーバーワークだったんだよ、だからツケが回ってきたんだぜ、きっと」
「今日一日、せめて半日は大人しく寝るんじゃぞ。ハンティに迷惑かけんようにな」
口々に好き勝手に言い捨てて、ヒューバートとフリークは部屋を出て行った。憮然とするパットンと、くすくすと笑うハンティだけが残される。
「さ、いい子だから、これ以上熱が上がらないうちに寝な」
「子ども扱いするなよなー……」
「病気で大人しく寝ることができないようじゃ、子ども扱いするなって言うほうが無理だよ」
「………………」
パットンはそのままベッドへ潜り込んだ。上掛けをハンティは肩までかけてやる。
「子守唄でも歌ってあげようか?」
「……いらねぇよ」
そう言うと、視界を遮るように上掛けを頭まですっぽりと被ってしまう。蓑虫のように包まったパットンに笑いをこぼしながら、ハンティは立ち上がった。
「あんまり傍にいたら寝付けないだろ? ちょっと水を持ってくるよ。熱さましに薬も貰ってくるから、起きたら飲むんだよ」
パットンに声を投げかけて、そっとハンティは部屋を出た。
「………………」
上掛けをめくり、パットンは顔を出す。
「………………ちぇ」
面白くなさそうにしつつ、目を瞑ると、一つ大きく深呼吸をした。




「………………」
少しだけ、複雑だった。
パットンのことなら何でも分かると思っていただけに、熱があると言うことに、ヒューバートに言われるまで気がつけなかった。確かにあの時は普段と変わらず、熱がある者特有の気だるさやぼんやりとした態度は微塵もなかった。それで気がつけ、という方が難しいだろうけれど、ハンティは複雑だった。
「……早く戻らないと、パットンの奴、本当に抜け出すかもね」
誰に言うでもなくひとりごちて、ハンティは水場へと向かった。






寝つきはいい方だから、もしかしたら寝ているかもしれないと、ハンティはそっと部屋のドアを開けた。見れば蓑虫だったはずのパットンは顔を出し、片腕は出しているものの、上掛けをかけて大人しく眠っていた。
「………………」
その姿に笑みを浮かべ、サイドテーブルに水差しとコップと薬を置く。椅子を持ってきて傍に腰掛けた。そっと額に手を当ててみるとやはり熱い。心なしか、先程よりも高くなっている気もする。ハンティは起こさないように、そっと上掛けを掛け直してやった。
「む……」
唸って眉を寄せ、パットンは横向きになった。やはり少し寒いのか、無意識に上掛けを引っ張っている。
「……もう一枚あった方がいかな」
ハンティは取り合えず隣のベッドから上掛けを引き剥がし、それもかけてやる。
「まったく、だから大人しく寝てなって言ったんだよ」
囁きかけるように呟くと、またパットンが低く唸った。抗議されているようにも聞こえて、もしかしたら夢でも見ているのだろうか。その夢の中でも、自分に怒られていたりするのだろうか、とハンティは苦笑した。
傍に座りなおし、パットンの顔にかかる髪をはらってやる。少し硬めの髪は、さりり、と僅かに硬質な音がするような気もする。
「………………」
思い返せば確かにパットンが熱を出すのは珍しい。怪我を負った時は、その傷のせいで熱を出したこともあったけれど、今回のように、特に何の怪我もしていない場合はあまりない。
本当に赤ん坊の頃は、丈夫というほどではなかったが、今は十分すぎるほど丈夫に育った。それは有難い。有難いが、逆に今回のように熱を出すと、もしかしたら慣れていないせいで耐性がないかもしれない。もっとも、慣れるほど、熱を出され続けても困りものだけれど。
「ー………………」
何か口の中でもごもごと言っているようだ。顔を寄せるが言葉にならないようで耳に届かない。
間近で寝顔を見るのは少し前まであったけれど、最近はない。それはそうだ。看病もしていないし、一緒の部屋で寝てもいない。
……一緒のベッドで寝たのも数えるしかない。本当に小さい頃に、数回。普段から厳しくしつけていたので、パットンは早いうちに一人で寝れるようになっていた。それに男だから、乳母とは言え、気恥ずかしいのもあったのだろう。けれど、それでも物心も付かぬ頃は寂しい思いもあったのか、一緒に寝てもいいかと言ってきたこともあった。
「それがまぁ、こんなに大きくなって」
比較的規則正しい呼吸に安心しながら、ハンティはベッドにひじをつく。腕を置いてそこに頭を乗せた。顔が近い。
「……気配で気がつきそうなもんだけど」
起きてほしいわけではないが、戦う者としてどうだろうとも考えてしまい、苦笑する。こんな時くらいは、いいのではなか。
「悩みなさそうな顔して、ねぇ……」
実際はそうではないだろうと知っているけれど、邪気のない顔にハンティはそうこぼさずにはいられなかった。





「ハンティ、ハンティ? ちょっくら入るぞい。パットンの飯の用意ができたぞ」
ドアをノックして、返事がないことにいぶかしみつつ、フリークはドアを開けた。
「………………こりゃ、また」
思わず笑いをこぼした。
「フリーク、どうした?」
後ろからやってきたヒューバートが同じようにドアから顔をのぞかせた。
「………………おー、ほうほうほう」
にやにやと嬉しそうであり、かつ意地の悪そうなものを含んだ笑みを浮かべる。
「………………」
「………………」
パットンの寝顔を見ていたハンティは、そのままベッドに伏せて、一緒に眠ってしまっていた。
「まぁ、ハンティも最近頑張ってるからなー」
「それに眠気というのは人を引き込むものもあるそうじゃからのう。いやしかし、二人とも起きたらどんな反応をするやら」
「中途半端なことしないで一緒に寝ちまえばいいのによ」
「それが出来れば苦労はせんわい。片方は朴念仁、片方は意地が強いしのう」
しみじみと頷きつつ首を振りながら言う。ため息も漏れそうだ。
「取り合えずこのままにしとくか」
「そうじゃな。ワシ等は先に飯を食べるとするか」
「ハンティのは後でアイツのと一緒に持っていこうぜ」
そう言って二人は部屋を出て、静かにドアを閉める。
「………………」
「………………」
部屋の中の二人は未だ静かに眠っている。二人が目を覚ますまで、もう少し。








「………………む……」
目を開けると、すぐ前に黒髪が広がっていた。ぼんやりとした思考のまま、視線を流すと、白い柔らかそうな肌が視界に入ってくる。
「……あー……?」
まとまらない頭で考えながら、それはハンティだとパットンは気がついた。でもなんで目の前で寝ているのか。普段なら、そこでぎょっとして飛び起きるものだが、やはり熱はあって、パットンの健康を阻害していたらしい。どうにも頭が働かず、そのため考えることが億劫になっていた。目の前で、ハンティが眠っている。ただ、それだけがパットンの頭にすんなり入っている。それがどういう状況なのかは判断しきれていない、ある意味幸せな状態かもしれなかった。
「………………」
ふわふわしているな、とか、柔らかそうだな、とか、色が白いな、とか視覚的に入ってくる情報だけしか判断していないパットンに小さくくしゃみが聞こえた。ハンティが肩を震わせる。
「………………」
パットンはもぞもぞと動くと、自分にかかっていた上掛けの一枚を、ハンティにかけようとする。しかし、どこかが引っ掛かってうまくいかない。だんだん苛立ってくる。
「………………………」
パットンはハンティに顔を近づける。
「……おい、ハンティ、寒いんなら中に入れよ」
「ん………」
「………ハンティ」
もう一度呼ぶと、寝ぼけ眼のハンティと目が合う。
「……何だい、パットン……」
「だから……中に……」
「……一人じゃ寝れないのかい? ……まったく、そんな大きな体して子供みたいなんだから……」
そう呟き、パットンが何か言いかけていると、ハンティはのそりと体を起こし、自分からベッドに潜り込んだ。パットンの方はといえば、ようやく、この状況が何やら問題があるのではないかと思い始める。が、何が問題なのかまではたどりつけない。
「……ほら、熱があるんだろ。寝なくちゃ駄目じゃないか……」
考えているパットンの頭に腕を回し、ハンティが無理矢理ベッドへ寝かせる。そして、普段が大人しくしていないせいなのか、自分の胸元に抱え込むようにすると、ぽんぽんと軽く背中を叩いてから優しく撫ぜてやった。
「もう少し寝てな、後で起こしてあげるから……」
「………………ん……」
そう言いながらも先に聞こえた寝息に、パットンもあっさりと意識を手放す。暖かいし心地がいいし、何より眠い。このまま眠ってしまってもハンティが起こしてくれるから大丈夫だと、安心して眠りに落ちた。
もう少し考えていたら、色々分かったはずだが、二人は睡魔に勝てずに、そのまま一緒に眠ってしまった。気持ち良さそうに。








「………………ふ……あ……?」
ハンティは目を覚ました。ゆっくりと覚醒する。しばらくぼんやりとしていたが、まず先に何で寝ているのか、という疑問が頭を通過したため、それについて考えることにした。
確か、自分はパットンの看病をしていたはずである。
途中、水を取りに席を立ち、その後はずっとそばでパットンを見ていた。
「……あの時……かな?」
パットンを見ていた後半の意識がない。どうやら自分は眠ってしまっていたらしい、ということに気がついた。それから寝ているのはベッドらしいということにも。何故ベッドに、コレは何処のベッドなのか。
「………………」
眉を寄せる。おかしい。何かがおかしい。
と、
「むぅ……」
自分の胸元から声が聞こえた。そうだ、視界の下側に青い髪の毛が先ほどから見えていたのだ。コレはずっと見続けてきたパットンの髪。でもそれがどうして、自分の胸元あたりにいるのだろうか?
ハンティはじょじょに思考を取り戻して行く。
つまり、それは。
「……あー……ハンティ、起きたのか……? わりぃ、俺はもう少し……」
パットンは一つあくびをすると、目の前の柔らかい胸に頬を寄せた。
その姿に思わず頭を撫でそうになるが、ハンティはようやく先ほどからパットンがたどりつけていなかった答えにたどり着く。

ようするに、一緒のベッドで、二人抱き合う形で眠っていたわけで。

「ぱっ………ばっ………」
声にも言葉にもならない。ただ顔が真っ赤に染まっていく。
「………………ん……?」
小刻みに震える様子に、再び眠りに入ろうとしていたパットンも頭が働き出したようである。顔をあげ、ハンティと目を再びあわせた。
「……あ……? え、ハンティ……? 何で一緒に…………って………………」
言いながらパットンも状況が飲み込めてきて、顔が赤くなっていく。
「………………こ、の……っ!!!」
ハンティが手を上げた。




どぉおん!!というけたたましい音が小屋を揺らす。
「な、何だァ?!」
「こりゃ、ハンティの奴、目が覚めたようじゃの」
「はー、でもだからって雷落とすかぁ? ……何かあったのかな
「行ってみるとするか」
「おう」




「ちょ、待て、待てって!! 俺は何にもしらねぇぞ!」
「そんなわけないでしょ!」
「いや真面目に落ち着け、だいたい俺、病人だぞ、寝ろって言ってたのハンティじゃねぇか!」
「そうだけど! でも何かなかったらどうしてあたしとアンタが一緒に寝てるのさ!」
「え」
「なんと」
パットン以外に聞こえた声に、ヒステリー気味に怒っていたハンティの動きがぴたりと止まった。後ろを振り向くと、ヒューバートとフリークがドアを開けてこちらを伺っていた。
「ヒュー、爺さん」
ベッドから既に転げ落ちているパットンは、助けを求めるように二人を見る。が、二人は実に興味深くパットンとハンティを見ていた。
「……いやはや、これはこれは」
「俺達がさっき見に来たときはこんなことにはなってなかったのになぁ」
「お邪魔してしまったかの、お暇しようか」
「だな。あ、俺達しばらくこねぇから、続きやってていいぜ」
ひらひらと手を振り、ヒューバートは実にさらりととんでもない事を言う。
「ちょ、ちょっと待て!! ヒュー、お前カン違いしてるぞ!!」
「いやいやいやいや、お前だって男だしな、むしろようやくだよな、うん」
「あのなぁ!!」
「今日は一日二人でゆっくりしとるがええ。うん」
「フリーク!!」
「それじゃあなー」
ドアが閉まり、取り残される二人。
「………………」
「………………」
気まずい沈黙が流れる。何か言おうにも、何も言い出せない。とりあえずお互い、どうしてこんな状況になったのか必死で考えることにした。
「………………あ」
先に声を上げたのはパットンだ。
そういえば途中、目が覚めて、目の前にハンティが寝ていたような。今のように一緒のベッドにではなく。それで、寒いんじゃないかと、上掛けをかけようとして出来ず、それから……。
「……そうだ、そうだよ、お前がベッドに入ってきたんじゃねぇか!」
「なっ! 何言ってるんだい! そんなこと……っ?!」
否定しようと声を荒げるが、はたと気がついた。なんだか眠る前に幼い頃のパットンを思い出していたせいか、自分に声をかけるパットンが、あの頃を彷彿させて、つい、子ども扱いしてしまったような気がする。その時どういう行動をとったのか曖昧だが、もしかして。
「………………あ、あたしのせい?」
「いや、ハンティのせいっつーか、なんつーか……まぁ、……なぁ」
何と返事をしていいのやら分からず誤魔化すように頭をかく。同じベッドの上にいるものの、特に衣服の乱れはないし、ただ眠っていただけなのはわかる。……少し残念な気がしないでもない、とパットンはこっそり思うが。
「……あ、そうだ、アンタ、熱は?」
「え? あー……大分ひいたか、な?」
「どれ、ちょっとかしな」
赤くなりながらも額に手を当てて確かめる。熱は起きていたときよりは大分引いている。
「……うん、そうだね。でもすぐにぶり返すかもしれないから、やっぱり今日は寝ときな」
「うぇえ」
「そんな声出しても駄目だよ。……水飲むかい?」
「……おう」
ハンティはベッドから降り、コップに水を注ぐ。それを受け取り、パットンは一気にあおった。少し温めの水だが、逆にゆっくりと滲みこんでいくようでもあった。そのおかげか、急に空腹感を激しく覚えてしまう。
「……腹減った」
「……ああ、そういや、朝から何にも食べてないんだったね。ん、待ってな、持ってきてあげるから」
「いいよ、食べにいく」
「いいから寝てな」
びしりと指を指され、パットンはしぶしぶそれに従う。
……普段どおりのやりとりだ。先ほどのぎこちなさは解消されたようだ。
「ご飯食べたら薬飲んで、また寝るんだよ」
「ん、分かってるよ。………………ハンティ」
「なんだい」
ドアノブに手を掛けたまま、ハンティがパットンを見る。パットンはそっぽを向いて視線を合わせない。
「……眠れなかったら、また、その、……してくれんのか?」
その台詞に、ハンティは白い肌を赤く染める。
「あれは……っ、何言ってるのさ、まったく……。
………………………………まぁ、またアンタが、子どもの時みたいに、眠れない、って言うんなら、ね」
「………………子ども扱い、すんなよ」
沈黙が降りる。その横顔は確かに子供のそれには見えない。けれども。
「……したくて、してるわけじゃないけどね」
「え?」
「大人しく寝てるんだよ、パットン」
一つ笑みをこぼして、呆気にとられているパットンを残しハンティはドアを閉めた。
「……まったく、昔から本当に、油断できないんだよね」
その呟きは誰にも聞かれることはなかった。


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姉であり乳母であり仲間であり、大切な人である。