初めて出会ったのはかなり昔。
鮮明に思い出せる。
気が強くてぶっきらぼうで。
可愛い顔して大魔王の娘ときたもんだ。
赫い瞳。
人間にあるまじき眼球色素。
魔族のみにあらわれるという色。
とても綺麗だと思った。
初めて出会ったのはもう随分と前。
今でも良く覚えている。
初めは変な奴だと思っていたけれど。
とても真っ直ぐで、とても優しい奴だと知った。
深い深い大地の色の瞳。
それは際立った色ではないけれど、
ことのほかあの男に似合っていて。
とても優しい色だと思った。
大魔王が勇者に倒されて。
父の遺志を娘が受け継いで。
下手な仕事を受けるより、この娘についていった方が面白そうだと、
三人そろって意見が一致して。
種族の違いなんて、はなから拘ってなかったし。
何よりも、彼女自身に引かれた。
その小さな体で全部背負っていたら、身がもたねぇよ。
この娘の力になりたくて。
この娘の未来が知りたくて。
たとえそれでこの身が朽ち果て、倒れようとも。
裏切り者と呼ばれ、命を狙われようとも。
それが己で決めた事なのだから。
後悔はない。
父と姉の遺志を受け継いで。
ついて来てくれたのはおかしな三人組。
種族の違いなど、まるで気にも止めていない変わった奴等。
男が言った。
私の力になりたいと。
本当に変わった男だ。
ただただ真っ直ぐに懸命で。
欲にかられて戦うでもなく。
たった一人の魔族の娘の想いに応えようとしてくれる。
それで同族の者達に罵倒されようとも、笑い飛ばしている。
国が落ちても、それでも守ってくれる。
…馬鹿な男だ。
守れなかった。
腕に自信はあったけど。
そんなのあいつの前じゃなんの役にも立たなくて。
ただ、兄妹の戦いを間抜けに傍観していて。
傷つき倒れる守るべき姫君。
守れなかった。
ただ、連れて逃げる事しかできなかった。
守れなかった。
突然襲ってきた兄と戦って、
自分は無様にも負けてしまった。
倒れた自分をそれでも守ろうとするあいつ等。
国が落ちる。
守れなかった。
父と母と姉の想いがある、あの国を。
はいつくばっても生きる事は惨めか。
国が落ちて、傷つき、仲間を失って。
それでもまた、戦おうとする事は滑稽か。
それでも、彼女を、この娘を、己の力で立ち上がらせたかった。
惨めでも無様でも、己の力でたち上がり前を見据えて歩かなければ。
誰かに手を貸してもらい、ただ空虚に生きるのでは、死んでいるのと同じではないか。
確かに、戦渦から逃れ、静かに安息の日々を過ごすのは幸せだ。
けれど、決着をつけなければならない事もあるのだ。
それをつけなければ、
後戻りすらできず、まして、前になんて進めやしない。
何もできずにただ、時が過ぎるだけ。何も変わらない。
どこへも行けない。
自分は、前を見据えるこの小さな娘を。
己の故郷の君主に自分を預け、あの男は去っていった。
突き放すような言葉。
それは信じるものの想いが、相手の重荷にならないようにとった行動。
信じるものの存在が、自分を縛り付けないようにと、己の手で切り離して。
だけどそのあとにもれた強い決意。
相変わらずお前は馬鹿なほどに真っ直ぐだ。
だが、そこがとても。
立ち上がらなければならない。
けれどもう疲れたと、黒い闇が体に纏わりつき、立ちあがる力がない。
寂しさが込み上げる。いつも側にいてくれた男がいない。
だが、立ち上がらねば。信じてくれているのだ。
その者のためだけじゃない、己のためでもあるのだ。
深く、覚めない眠りが手招いて、その手を取ってしまったら、多分二度と、
ここへは戻ってこれない。
二度と。
そうしたら。
今までの想いが、これからの想いが。
全て死んでしまうのだ。
しばらく会うつもりなんてなかったのに。
会ってしまったら、きっとお互い駄目になる。
そう思っていたのに。
誰よりも大切な少女。
そんな気持ちに変化したのはいつだったか。
助けたいと思っていた。
力になりたいと思っていた。
共に歩み、彼女の行く先を見たいと思っていた。
傷つき、大切な者を失い、それでも前を見据える少女。
…守りたいと思った。
そうしてあの時。
なにもできなかったあの時。
力がほしいと切に思った。
大切なモノを、自分で守れるくらいの強さが。
完全に納得した強さを手に入れたわけでもないくせに。
会わないと決めていたのに。
それでもやっぱりあいたくて。
戦場の中、死神が舞う。
どれくらいぶりだっただろう。あの男の姿を見たのは。
相変わらずのくだけたしゃべり方で。
それだけの事なのに。
涙が浮かんでこぼれた。
常に自分を支えてきてくれた男。
わからない。
この想いが、なんと言うのかは。
ただ、側にいてくれるだけで安心するのだ。
別れた時、理由がどうあれ、寂しかったのは事実だ。
そして再び会えて、安心する自分がいる。
それも事実だ。
なんというのかわからない。
けれど。
相変わらずのしゃべり方。
相変わらずの仕草。
相変わらずの笑顔。
相変わらずのあの、深い大地の色の瞳。
全て失ったと思っていたけれど。
この場所だけは残っている。
自分を支えてくれる、その優しい腕はそのままだ。
すごく。
嬉しかった。
『小説』に戻る。
『サトヒロ同盟』に戻る。
今回は出会いから、再会まで。
書いていると、どうもヒロがサトーの事より、国の事ばっかり考えてしまうんです。
当たり前なんですけど、国の事と同時に、サトーの事も…。
かなり途中から無理はいってます。申し訳ございません。まだまだ修行不足ですな…。
サトーはヒロの事を本当に大事に想い、想い過ぎているところがあると思う。忠義と使命感が強そう。
例をあげるならば、バグバットさんとか、ガンマッハさんとか。
このお二人も、想いを秘めたまま、ただ、愛しい少女を支えつづけてましたよね…。
ヒロはヒロで、まだ子供な所があるし。
本当に側にいてほしい存在だとは思うけれど、そっちには考えがいかなそう。
ただ、側にいてくれるだけでいい。それだけで安心する。
なんというか…父性的なところもあるんじゃないかと。
サトー…報われてんだか、救われないんだか。