「姫!姫!!」 今日も今日とて東方四天同盟。 その拠点となるジポングの城に相変わらずな声が聞こえる。 「姫はどこへいったのだ!!」 親子2代に仕える忠臣の隻眼の男。蓮撃だ。 いつもは勇ましい戦装束に身を包んでいるが、今日は落ちついた紺の着物と黒の袴だ。 「は、そ、それが・・・」 蓮撃にがなりたてられるように問われ、身をちぢこめながら兵士は答える。 「まさかまた城を抜け出したのか?!」 「は、そのうようで…」 「そのようで、ではないだろう!!あれほどちゃんと目を離すなと…!!」 「は、ははっ、申し訳ありません」 いつもの激とはいえ、その声はいつきいても怖いものがある。 「またシローめが手引きをしたか…!だからあのような下賎の者を側につかえさせるなと言っておるのに…!」 くすんだ癖のある緑と、黒の髪を持つ少年忍者をおもいだす。幼い頃から姫のお気に入りの。 「戻ってきたら許さぬぞ!シロー!!」 「は、はいっ!!」 ? 「・・・・・・・・・・」 不意に聞こえた幼い声に、蓮撃はぴたりと止まる。そうして声のするほうを見やれば、後ろに木の葉まみれのシローがいた。どうやら蓮撃の声が聞こえて、慌てて木の群れから飛び出てきたらしい。 「…シロー…」 シローの姿を改めて見、蓮撃はぽつりと呟く。 「は、はい。」 名をよばれ、少年は直立不動で大老を見る。 「…何でここにおるのだ?」 「え?」 「んっふふ〜。容易いものよのう♪」 その愛らしい顔を笑顔でゆがめ、噂の張本人、鈴魚は野山を駈けている。長い青紫の髪をゆらし、全身で風をうけながら。 「では何か!姫は一人で出かけられたというのか?!」 「は、はい。多分…」 蓮撃の怒気にシローも縮こまってしまっている。そうしているとまるで小動物のようだ。大きな黒めがちの瞳が不安そうに蓮撃を見上げる。 「…何故!共にいかなかった!!」 一緒に抜け出したら抜け出したで怒鳴るのだが。 「それが、僕…いえ、私は丁度修行の最中だったので…師匠から山駈けをしろと言われていて、ついさっき、戻ってきたので…」 しどろもどろになりながらも何とか答える。 山駈けはその名のとおり、山を駈けぬける修行だ。食料などは一切もたず、現場調達。仕掛けられている罠などをかいくぐり、時間までに目的地へと。 そういえば確かに、木の葉まみれであると同時に、随分と薄汚れていた。体にもそこここに傷あと。 「・・・・・っ」 怒りのぶつけどころを無くし、蓮撃は荒く息を吐く。 「…ともかく!早く姫を探すのだ!!何かあってからでは遅い、さして遠くには行っておらぬはずだ!」 「は、はいっ!」 蓮撃の声に、シローは修行で疲れた体をおしてその場からかき消えた。 もともと、シローと一緒になって野山をかけまわり、木々を飛びまわるくらいだ。身は軽い。 だから、脱走は造作もなかった。 これならば、シローに手伝ってもらわなくとも、一人でも抜け出せるなと妙に自信を持つが、しかし、一人では少しつまらない。 情けない声を出しながらついてくる(ついてこないと怒るのでついていってるのだが)シローが後ろにいないのは、何だか淋しい気分だ。 「…ふむ。やはり遊ぶならシロちゃんもつれてこえばよかったのぅ」 そう思いつつも久しぶりの自由に鈴魚はお気に入りの野山を走る。 大好きな草原と風と太陽の匂いを胸いっぱいに吸い込み、思いきり羽根を伸ばしながら駈け回っていた。 「どこいっちゃったのかな…姫様」 蓮撃に怒鳴られて、重い体を叱咤しながらシローも飛びまわる。 だいたい検討はつくのだが、連れ戻すとなるとそう簡単にいかないだろう。何せ、腕っ節でいえば、鈴魚の方が断然強いのだから。 「…はぁ」 小さくため息をつく。 守るべき主人なのに、その主人がそこいらの男顔負けに強いのは、何だか複雑である。 背丈はまぁ、自分の方が高い。けれど、自分は体格的に細くて鈴魚とそうかわりがない。蓮撃や極楽丸のように男の威厳のある風貌でもないし(極楽は少々違うと思うが)。 強くなりたいなぁ。 と。思う。せめて、1つでもいいから、大切なものを自分の手で守れるほどに。 親子2代でつかえさせてもらい、その間、胃薬と頭痛薬が手放せなくなっている。 二人揃って自由奔放で我侭で無茶しいで。そのくせ、滅法強い。 兎にも角にも憎めない性格なのはなんというか悔しい想いもある。 己は結局、この親子に惚れ込んでいる。 二人とも幼い時から見ているので、まるで弟のようであり孫のようである。 だからこそ、立派な君主になってほしいのだが。 「…まったく。本当にそっくりな事だ…」 御願いだから、政務ほっぽりだして、いきなりいなくなるのだけは似てほしくなかったのだが。 それはあとの祭である。 NEXT⇒ 小説トップへ。 |