向日葵/番外
「シンバ、最近何処かに行ってるみたいだけど、どうしたんだい?」 ソルティが資料をまとめた紙を整理しながら、うーんと伸びをしているシンバに聞いた。 「え?へっへへー、内緒。なーいしょだよー!」 笑顔満面に、嬉しそうにこたえる。 「僕にもかい?」 「うん!ソルティだって、僕に言えない事とかってあるでしょ?だから僕も内緒ー!」 さりげなく、核心の突く言葉を吐きながらシンバは悪戯をする子供のように、歯を見せて笑う。 「あ、は、はは、そうか…それは残念だな…」 無邪気なシンバに対して、ソルティはあくまで笑顔で対峙する。だがしかし、心の内側は酷く絞めつけられるようだ。 今まで、シンバが己に対して秘密事をもった事は一度もない。だのに、己に言えない事が出来たという。 それはそれでショックな事なのだが、同時にそれは自分の浅ましさを突きつけられているようでもある。 己は、この青年に対して重大な秘密をかかえたまま。 それはいつか、この無条件に自分を信じてくれている青年を裏切る事である。 秘密をもたれたからショックと思うなんて。 では、自分は何だ。 最後には、この青年を裏切る自分が。 また、吐き気を覚える。 「ソルティ?どうしたの?顔色、悪いよ?」 「え?あ、いや、何でもないよ。んー、ちょっと働きすぎたのかもね、今日の仕事は終ったし、もう休もうかな」 身をのりだし、顔を覗き込むようにしながら聞いてくるシンバに、ソルティは慌てて無理に笑顔をつくっていった。 「そだね、そうした方がいいよ」 「ああ、それじゃ、そうさせてもらうよ」 言いながら、手にはきちんとそろえた資料を持ち、ソルティは立ちあがった。 「あ、ソルティ」 戸をあけ、出ていこうとした時、シンバが不意に声をかけた。 「ん?何だい?」 「えっとね、いつも有難う。ゆっくり休んでね」 屈託なく、笑う。 「─────────」 一片の邪気のないような、その笑顔。 自分を信じ、好意をむけてくれ、そして感謝すらしてくれる。 この、自分に。 「っと、じゃ、僕、ちょっと出かけてくるね!ソルティは本当、ゆっくり休んでてよ!」 僅かに目を見開き、立ちつくしているソルティに、シンバは手を振ってそういうと、窓を開けて屋根に出ると、そのまま屋根伝いにどこかへと駈けて行ってしまった。 「・・・・・・・・・・」 開け放たれた窓辺を、じっと見やる。 『有難う』 無邪気な笑顔。 疑いようのない、純粋な感謝。 この、自分に対して、その言葉をかけるのか。 「…シンバ…」 言い様のない吐き気が襲う。 心がまた酷く、痛かった。 ←BACK NEXT→ 『小説』に戻る。 『サトヒロ同盟』に戻る。 |