向日葵4
数日後。 ウェイブは窓から外を眺めていた。 「………………」 見た目にはぼんやりとしているか、もしくは何か難しい事を考えているのか、どちらかに見えるのだが。 「………………………………」 今回の場合はそのどちらでもなかった。 では何か?と問いかけてみれば。 「………………………………………………」 返ってくるのは無言の重圧感だけである。 非常に怖い。 無表情なだけに、更に怖い。 さわらぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。 だがしかし、この国にはそれが通用しない者もいる。 「ウェイブ?どうしたのさ」 まさしくその筆頭であるのはこの国の現君主の青年だ。 明るいオレンジ色の髪に濃いこげ茶の髪。それをみつあみにして、くるりと後ろで輪っかにして縛っている。瞳はサトーのよりも明るい琥珀色。 「……シンバか」 一言そういうと、また外に視線を向けた。 「何かあったの?」 「……いいや」 短く答える。と言うか、答えになってない。 「?」 きょとんとしながら、シンバは首をかしげた。 「………………」 またしばらく黙ってから、ふと、ウェイブはシンバに顔を向けた。 「……アルを見かけなかったか?」 「え?アル?ううん?」 「そうか」 返ってきた返事にウェイブはそれだけいって、また外を見る。 「……見かけたら、ウェイブが探してたって、いっとこうか?」 「いや、いい」 「いいの?」 「ああ、大した事ではないからな」 「ふぅん?」 シンバも、それ以上聞く事はしなかった。ウェイブが何だか不機嫌そうな理由はわからないが、取りあえず「元気だしてね」と声をかけ、踵をかえして走りさった。 「………………」 確かに、ぼんやりとしているのだか考え事しているんだかよくわからない。怒っている訳ではないようだが、何となく不機嫌ぽそうではある。 いったい何があったのか。アルがそれに関係しているようではあるが、ウェイブは何も言わなかった。 「あ」 ウェイブと別れてから城内を歩いていると、先ほどウェイブに居場所を聞かれた人物が、傭兵忍者と歩いていた。 「おーい、アルー!」 「シンバさん」 呼びかけられて、アルは振り返る。隣にいたサトーも同じように駈けてきたシンバをみた。 「どうしたんですか?」 「あ、うん、あのね、ウェイブが何だか探してたみたいだよ?アルの事。」 「ウェイブ様が?」 ウェイブに、別に言わなくていいといわれたのにもかかわらず、シンバはその事をアルに言う。何となく、シンバなりに言った方が良いと判断したからであろう。 「何でしょう、いったい。確かこの間の演習の報告や各地の城壁の設置とか、報告書はきちんとお渡ししたはずですし……。急いでましたか?」 頬に手をあてて、うーんと考えてみるが、思いつかない。 「ううん。アルにウェイブが探してたよっていっとこうかって聞いたら「いい」って言われたから、そんなに急いだ事じゃないんじゃないかな」 「そうですか。でも後で聞いてみましょう。有難うございます、シンバさん」 にっこりと笑顔でアルは礼を言う。シンバも一緒になって嬉しそうに笑った。ほのぼの天然な二人がこんなににこやかに笑うと、それだけで場がつられてなごやかになる。サトーも二人を見て、しみじみと微笑ましく思った。 「そういえば二人してどうしたの?最近、よく一緒にいるよね」 「ん?ああ、まぁな」 あれ以来から、サトーはアルの手伝いをしていた。アルが仕事などで忙しい時など、代わりに水をやりにいったりしているのだ。尤も、向日葵は結構生命力が強いので、そう頻繁に世話をする必要もないのだが、同時に成長が早いので、毎日見にいっても飽きないものである。 今日は大きくなってきた向日葵に添え木をしにいこうとしていたところだ。向日葵は太い茎をもち頑丈ではあるが、あまり成長し、背丈が高すぎると花の重みに強い風が加わると、茎がおれてしまう事もある。だから、あらかじめの保険だ。 「何々?これからどっかいくの?」 まるで子犬のように、純真な目で疑問をぶつけてくる。こういう目をされると、何故か拒否出来なくなる心境になってしまうのが不思議だ。その筆頭がこの国の軍師だが。 動物の目を見ていると、自然と癒され素直な気持ちになる。あれと一緒だろう。 「うーんとな…」 職業柄、嘘をつくのはなれている。しかし、元から正直な性格で、おまけにこんな素直な目でみられると嘘をつくのがどうにも罪悪感を覚えてならない。 サトーはあさってを向いて首元をかく。 「……アル嬢ちゃん、どうする?」 そう言って、隣の金茶の髪の少女を見やる。 「そうですね……。シンバさんなら大丈夫じゃないでしょうか?」 「かもしんねぇが、逆に素直すぎるからなぁ。ふとした拍子に、って可能性もあるからな」 「何だよー!二人して内緒話!」 二人にしかわからない話をされて、シンバは頬をふくらませ膨れっ面をする。しかし齡20を超える青年のする態度じゃない。 「あーあーふくれるなふくれるな」 そんなシンバの頭をくしゃくしゃと少々乱暴に撫ぜた。 「じゃあシンバさん、誰にも言っちゃ駄目ですよ?特にウェイブ様には秘密にしておいてくださいね」 「!うん!」 人差し指をたてて、アルがシンバにそういうと、シンバはまるで餌を貰える子犬がしっぽをぴんとたてて振るが如く、大きく頷いて身を乗り出してきた。 「シンバ、最近何処かに行ってるみたいだけど、どうしたんだい?」 ソルティが資料をまとめた紙を整理しながら、うーんと伸びをしているシンバに聞いた。 「え?へっへへー、内緒。なーいしょだよー!」 君主の少年は、秘密をもって無邪気に微笑んだ。 ←BACK NEXT→ 『小説』に戻る。 『サトヒロ同盟』に戻る。 |