▼こおりのきおく▼
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 仮眠を取ったサトー達は、身の回りのものを整え、出発した。
 一人から三人へと人数が変わり、戦闘が幾分楽になったのは確かだったが、塔を一階ずつ登るごとに、確実に魔物の強さは上がっているようだった。
 そろそろ、決めておくべきだね。とは、頬についた血糊を拭いながらの、チクの言葉だった。
 「敵は確実に強くなっている。ここら辺で覚悟を決めておいた方が良さそうだ。
 ……いいよね、サトー?」
 十分だ。とチクの言葉にサトーは笑った。自分ひとりでは、ここまでは到底辿り着けなかったことだろう。

 「次が、物理攻撃の通用する相手なら、まだ希望はある。でも、ザキフォンの剣戟を合わせても、通用しない相手が増えて来た。三人全てがやられることだけは、避けなきゃならない。
 もしも、次。
 もしも次に、攻撃の通用しない相手が出たら、サトー。僕とザキフォンが敵の注意を引く間に、走り抜けるんだ。僕とザキフォンの事は気にしなくて良いから。いいね?」
 言葉に、こくりと頷く。文句の有ろう筈も無い。一つ、深呼吸をして懐に入れた「鍵」に、そっと触れた。
 「じゃあ、行くか!」



 階段の手前、丁度侵入を拒む壁のようにそれは居た。どこか前にも見たことがある存在に、自然、苦笑がこぼれる。それは二人も同じだったようで、ほとほと、こういうものに自分たちは縁があるようだな。というザキフォンの言葉に、困ったものだよね。という、同じく苦笑いを含んだチクの声が重なって――ぱぁん、という銃声が、それに続いた。

 その音を合図に、ザキフォンは駆け出した。ゴーレムは撃たれたものの、かすり傷にもならぬ程度で、飛び出したザキフォンに拳を振るう。攻撃は続けざまに撃ち出された弾丸によって僅かに逸らされ、懐へと入ったザキフォンは、その重い剣をゴーレムの岩肌へと打ちつけた。
 悲鳴は無く、がぁん、という音が鳴る。すぐさまその場を飛び退くと、ゴーレムの撃が床にぶつけられる。床石が飛び散り、打ち付けられた地面は円形に抉れる。一撃でもまともに食らえば、命は無いのが明白だった。

 「ザキフォン、下がって!」
 ぱっと岩陰から姿を現し、チクが引鉄を引く。銃口からひゅんひゅんと幾重もの光が発射され、ゴーレムに雨のように打ち付けたが、かすり傷をつける程度でその肌を穿つことはなかった。ゴーレムは変わらぬ様子で、ゆっくりと二人に詰め寄ってくる。

 階段前が空いたのを見て、サトーはその場を駆け出した。

 足に力が集まるのを感じる。風が自分に集うのを感じる。
 ゴーレムは通すなとでも命じられていたのか、サトーが駆け出したのを見、大岩が落ち行くかのような咆哮を上げると、その拳を振りかぶった。だが、それは当たる事無く堅い金属音に阻まれる。
 「ここから先には通さん!」
 それに続く銃声に、ふたりの邪魔をさせるものか!という声が響く。振り向く事無く、駆け抜けた。

 目の前の光景が流れ去る。ぎゅっと、守るように懐の中のものを握り締める。かつて、離れぬようにと背に負った、小さな少女の手のように。
 階段を駆け抜けて、風を切って。辿り着いたその場所に、ひかりが、みえた。

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