「な…何だったんだ、今のは…」 先に声をあげたのは年若い男だった。 「……」 年嵩の男は、眉根をひそめ、視線の先にいる二人をみる。ただしくは、気を失ってしまった少年忍者を。 近年、魔王が滅ぼされてから魔族の生態系が変わってきたのか、以前にはあまりみられなかった瞳の色の魔族が増えている。 人間では普通にある緑や青と言った瞳の色。 それまで魔族のほとんどは、一様にある一つの色の瞳だった。 赫。 血のような。 宝石のような。 夕日のような。 酒のような。 表現はいろいろあれど、同じ色。 人間にもたまにそういう瞳の色をもつ者もいたが、極少数である。 あの少年の瞳の色は元々黒にきわめて近いこげ茶で。それが。 とたんに爛と光る赫。 そして、覆いつくすほどの焔の熱気。 「…その童子は何者だ」 シローを腕に擁く蓮撃に問いかける。蓮撃はちらりと一度二人を見てから、シローを側の木の根元にすわらせた。 「…その問いに儂が答える義理が何処にある?」 「…ないな」 そういうと、もう一度腕をふる。かしゅん、と、また鎌のような刃が出る。 「姫君はもう保護されたようだな」 「既に城へついている頃だ。御主達の仕事は失敗に終わったようだな」 かちり、と、腰の刀の鍔を親指でおしあげる。片足を前にだし、腰を引くくすえる。 居合の構え。 「…ならばせめて、双方の命だけでも戴いていくとしようか!」 言うや否や、鋭い踏みこみでとびだす。瞬時、がきぃん!と激しい刃のぶつかり合い。抜刀した蓮撃の刃が鎌のような刃と擦れあう。 がりがりと不快な音をあげ、おしあいが続いたかとおもうと、まるで申し合わせたかのように双方弾かれるように離れる。 「せぃ!!」 年嵩の男が反対の腕を上空に振りあげたかとおもうと、勢いよく振りおろした。同時にその袖口から分銅のついた鎖が飛び出す。 「!」 蓮撃はそれを横へのいてかわす。だがしかし、男は放たれた鎖の端を握りこむと、思いきり腕を振りあげる。波うたせたような軌跡をえがき、分銅が上空へと振りあげられる。そのまま、今度はそれを横薙ぎへと振りはらう。瞬時だ。 「むぅっ!」 かわした先に分銅がおってきて、蓮撃は咄嗟に腰のからになった鞘を引きぬいた。がしゃり!、と、鎖分銅がそれにあたって反動でまきついた。 まきつかれた鞘を放り投げると同時に蓮撃は走りだした。男も使いものにならなくなった鎖を捨てる。 「せやぁ!!」 がきん!!と、再び刃がぶつかりあい、剣花が散った。 「帰って依頼主に伝えるがいい」 刃の向こうの、黒装束の男の目を見て言う。 「この地も、あの我が姫君も!貴様等などにくれてやるものかとな!!」 きぃん!と、蓮撃の方から刃を上方へ弾いた。 「!」 僅かに状態が崩れる。 「老いたりとはいえこの蓮撃、まだおいそれと負けはせぬはぁ!!」 地のそこから響くような怒号。 轟、と空気をなぶるような剣気。 「裏奥義・封神閃!!!」 BACK NEXT 小説トップへ。 |